私には今とても心配な事があります。
左官仕上げ後のクラック(亀裂)の問題です。
施工管理をされる方には特に周知徹底しておいてほしい事だと思っています。
もちろん施工を発注する皆さんにも知っておいてほしいと思っています。
元来、良好な仕上げ(経年変化を含む)をするために、左官工事の先人達が古来から築き上げてきた技術を、「時代の要求」即ち、速く、安く、キレイにという事で軽視、あるいは無視される現場が殆どであることは、
今となってはどうにも左官屋一個人にはもう仕方ない事かもしれません。
あまつさえ、施工に関る職人にその傾向があることは、個人的に大変嘆かわしいというほか無いと思っています。
簡単にに言いますと単に「塗り厚み不足」という事です。
古来は土壁(木舞・荒壁)を下地とし、それこそ大昔から昭和の(戦後の)時代まで営々と続いてきました。
時代は変り、次世代にラスボード〜ボード用石膏中塗り〜仕上げ、という
工法の時代がしばらく続きました。
それにより、結果的に塗り厚みが確保され、防音、吸湿、防火などの他に、亀裂防止という仕上りを左右する重要なファクタを達成できていた、それはまず疑いない事実です。(もちろんきちんとした施工での話ですが)
ところが、左官工事の衰退→クロス貼り全盛という今の時代になり、施工スピードアップ、コストダウン、そして施工後の安全性(剥離、亀裂防止は当然として、化学物質汚染も含め)
それらを解決する事が当然のこととして求められていますが、実際はどうでしょうか?
塗り厚みを薄くし仕上げる、ということは躯体の軽量化としては意味のあることのように思えますが、一番最後の仕上げ品質確保の見地からすると要求とは相反しているといっていいと思います。
本来、左官工事の材料は亀裂を起しやすいので、それを避けるために今日まで先人達が苦心してきたはずだったのですが・・・。
今では土壁下地はもちろん、石膏中塗りの下地さえ激減し、PB(プラスターボード)下地が当り前になりました。
また、それが、これからの標準的な左官下地になることと思います。
その上で、念を押すようですが今見直されつつある「しっくい」「ドロマイドプラスター」等
PBに適さないとされてきた仕上げを薄塗りで仕上げろという要求が増え、
(それはそれとして)
工法まで古来のテクノロジーを否定すれば自明の理の結果が出ると私は思います。
即ち現工法ではどのようにしてもクラックは避けられない、ということになります。
極論すればそれは自然の摂理に背いた結果、ともいえるでしょう。
古来からの左官工法は、何度も塗り重ね、亀裂防止策を幾重にも施し、時間を掛けて乾かし乍ら材料も時間を掛けて吟味し自作したものですが、現時点ではそれらはまるで「間違い」とされています。
しかし、しっくいの物性、ドロマイドプラスターの特性いずれにしても素材の性質を、簡単に考え、メーカーや施工者そして施主でさえ古来の技術を無視し、都合よくいいとこ取りしているように思えてなりません。
素材を活かす古来の工法をもう一度考慮して私も施工者として取組みたいものだ、と思います。
そうすることで、冒頭の「地震対策」はもちろん、左官工事本来の防火、吸湿、防音などが達成できるものと信じています。
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